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青木 一永

社会福祉法人檸檬会 副理事長 博士(教育学)

大阪総合保育大学 非常勤講師青木 一永Aoki Kazunaga

岐阜県出身。元国家公務員(国土交通省)。れもん保育園(現:レイモンドこども園)園長を務めたのち現職。大阪総合保育大学大学院(博士後期課程)を修了、理論と実践の架け橋を目指している。2015年日本乳幼児教育学会新人賞受賞。 主な論文:「保育実践現場における 乳幼児理解の向上に関する研究 ―エピソード記述への取り組みを通して―」、「保育者の保育内容構想過程に関する研究 ―複線径路・等至性モデリング(TEM)を活用して―」

青木さんはいま、副理事長としてどのようなお仕事をしているのですか?

檸檬会にはいま保育園やこども園をはじめさまざまな施設・事業があります。それらがしっかりとした保育やサービスを提供できるよう、また組織としても成長できるように、いろいろなアイデアを考えたり、実行に移したり、調整したりしています。もちろん頻繁に各施設を回って、園の状況を感じたり、職員さんとも直接話したりする中で、必要な事柄や対策がみえてきますね。

そうした視点やアイデアというのはどのように生まれてくるのですか?

自分自身がれもん保育園の園長をしていたときの経験、とりわけ失敗経験や、各園長やたくさんの方々とお話ししたり、自分自身が大学院で勉強したりしていく中で、何かこう自分なりの軸というか、そういうものが出来上がっているように感じます。


檸檬会の園長は、他の職種から転職された方が多いですが、青木さんも元々は保育界の方ではないのですよね?

そうなんです。国土交通省でインフラ整備に携わっていました。苦情をお受けしたこともありましたし、人事課で職員採用や研修コーディネートもしていました。また、地方自治体に出向したときは都市計画にも携わりました。「この街の次の10年をどうしていくんだ」という重要な計画に参加。まちづくり団体、都市工学の先生、建築家を含んだワーキンググループが結成され、各方面から多様な意見をまとめカタチにしていくといった仕事をしていました。

それがなぜ保育界に転身されたのでしょうか?

実は学生時代、ギリギリまで行政マンになろうか、教師になろうか悩んでいたんですよね。どちらにも共通していたのが、社会をよくしたい、という思い。違いとしては、行政マンとして仕組みを通じて全体にアプローチするか、教師として一人一人にアプローチするか、という点で、最終的には全体にアプローチする方法を選んだということですね。  もちろん行政の仕事は楽しかったけれど、とても大きな組織だったので、やはり一人一人にアプローチしたいという思いが膨らんできたわけです。そして縁あって檸檬会の話があったのですが、ここでなら行政ほどじゃないけれど、全体に対してアプローチしつつ、一人一人にもアプローチできるのではないかと転身する事を決めました。

そんな青木さんの学生時代を聞かせてください。

中学のとき、「男子は丸刈り、女子はおかっぱ」という校則を変えたくて、生徒会長に立候補しました。反抗もしてみたい思春期なので、丸刈りに見せかけて実は角刈りだったとか、それぞれが小さな反抗を積み重ねているような状況で、それなら校則を変えちゃおうよっていう思いがあったんです。みんなも「そうだそうだ」という感じで、生徒会長に当選したわけですが、先生から「言いたい事はわかるけど、今あるルールを守れる事を証明してくれないと頭髪を自由化して金髪やパーマが出てきたらどうするんだ」、という話になりました。確かにそうだなあと中学生の僕たちは思ったわけ。「じゃあ守れる事を証明して自由化しよう」と取り組んだら、晴れてこのキャンペーンは成功、頭髪自由化を先生が許してくれました。なお、大学生の時、この母校に教育実習へ行ったんですが、当時作った「律立」というスローガンが引き続き使われていて、「この言葉、僕が作ったんだよ」って生徒に言うと驚いていました。その後、20年たったいまでも、この学校のスローガンになってるんじゃないでしょうか。

今を彷彿させますね(笑)その後のお話も聞かせてください。

中学、高校と田舎で育った僕は井の中の蛙で、大学進学で京都に出てきて兎に角衝撃の連続でした。そして、1回生の夏休みに僕は地元でひたすら運転免許の講習だったわけですが、おとなしいと思っていた友人が、1ヶ月インドへ一人旅に行ってきたと聞いてさらに衝撃を受けたわけです、しかもバックパックひとつで宿も決めずに。これは自分も行かなければ!と思い、アルバイトをしてお金を貯めて、インドを皮切りに、東南アジア、アフリカ、東ヨーロッパなどさまざまな国へ行きました。すべて物価の安い国ですけどね。
行ってみたら、だまされたり、口論になったり、道に迷ったり、ハプニングがいろいろありましたがほんと面白かった。もう嫌だと思うこともありましたが、また行きたいと思えてくる。また行きたいと思うところって、景色のよさでも、食べ物のおいしさでもなくて、そこでどんな人に出会ったかだったんですよね。僕は人に恵まれ、またこの国にきたいと思えるところがたくさんあります。だから、日本でも困っている外国人を見るとつい声をかけてしまうんです。

そういった大学生活のあと、公務員となり保育業界へ転身されました。そして大学院へ行かれているのですね。なぜ通い始めたのでしょうか?

檸檬会の施設や職員も増えてきたとき、「檸檬会の保育ってなに?」という事が問われるようになりました。保育には小学校のように教科書があるわけではなく、すごく曖昧な世界なので、言葉にするのは難しい。でも言葉にしないと、たくさんの人が同じ思いで保育をしていくことはできないですよね。だから何とかしなければと思ったときに、いま通っている大学院の学長先生と出会い、「大学院で学んでみたら」と勧められ受験・入学しました。同じ タイミングで「3つの心プロジェクト」という檸檬会の保育を言語化していくプロジェクトを発足。このプロジェクトの中で僕が心がけたのは、「勘と経験」ではない、しっかりとした学術的なベースや、世界の流れも踏まえて、現場実践につながるような方向性を示す事でした。

壮大なプロジェクトですね。その立場を担う青木さんの研究内容を聞かせてください。

当時、檸檬会の発祥でもあるれもん保育園(現:レイモンドこども園)の園長でもありましたし、法人全体を統括する立場でもありましたから、大学院での僕の研究テーマが檸檬会の保育の未来を左右するんじゃないかと思ったんですよね。そこでいろいろ考えたんですが、保育の根本的な部分にしないといけないなと思ったんです。じゃあ、それってなんだろうというと、保育者の「子ども理解」じゃないかと。「子ども理解」の重要性が分かったら、檸檬会全体の保育にも反映させることができるし、「子ども理解」を大事にする法人になっていけるんじゃないかと思い、その研究を修士論文にまとめていきました。実はこの修士論文が、日本乳幼児教育学会から新人賞を頂戴することができたんです。今振り返るとほんとにこのテーマにしてよかったなあと思います。「子ども理解」を大事にするからこそ、みんなが3つの心を大事にしてくれているんじゃないかと思う。そして今は、子ども理解を踏まえた保育内容について研究し、博士論文にチャレンジしています。

ひとつの試みがカタチになり、今後の檸檬会が楽しみです。この保育事業を通してどんな事を実現したいですか?

乳幼児期は人の成長のうえで、最も大事な時期だと思っています。だからこそ、保育界に優秀な教育者がもっとたくさん集まるようにしたいです。「教育に携わるなら乳幼児期だ」みたいな。もともと僕は学校の先生になりたい気持ちがあったといいましたが、実はそれは中学や高校の先生で、保育園や幼稚園の先生でもなければ、小学校の先生でもなかったわけです。なぜかというと、中学や高校の方が、自分の伝えたいことが伝わるし、教師としても高度だと思ってたんですよね。それが、保育の世界に入り考えが変わりました。とくに、大学院に入っていろいろと勉強すればするほど、自分の考えの浅はかさに恥ずかしくなるというか。つまり、教える対象の年齢が上がるほど高度な教育になっていくというのは間違いで、どの段階の教育だって高度で難しいということ。とりわけ、保育の世界というのは、小学校以降のように教科書で教えるわけじゃないので、何をするか決まってないし、個人差も大きいので、保育者による違いが大きくて、かなり高度で専門性が高いのではないかと。ただ、社会的にはそれがあまり知られていなくって、下の教育段階ほど簡単じゃないかと思われているのではないかと思うんです。 でも、乳幼児期は、人生の中で大事な根っこを育む大切な時だし、この乳幼児期の教育がその後の人生を大きく左右するからこそ、保育の世界にたくさんの優秀な人が集まって欲しい、そんな流れができたらいいなと思います。 そうなるために檸檬会が果たす役割や使命というか期待されていることがあるんじゃないかなと思っています。つまり、複数園を運営していて、たくさんの仲間がいる檸檬会だからこそ発信力を持って、伝えていかなければならないんじゃないかと。そしてその積み重ねで保育の重要性をしっかりと認知してもらえればそんな流れができるんじゃないかと思っています。

これからの社会とそこで生きていく子どもたちについて少しお話をきかせてください。

これからの数十年、ITやAIが発展することで、今ある仕事が無くなったり、今ない仕事が生まれたりと、大きな変化がやってくると言われてますよね。そんな時代がくると世代間のギャップがこれまで以上に出てきて、前提の異なる世代同士で共存できるかが、いままで以上に大きな課題となるんじゃないかなと。だからこそ、コミュニケーション力がますます必要になってくると思う。じゃあそのコミュニケーション力を育むにはどうしたら良いのか?そう、昨今言われている非認知能力です。今、保育界でも盛んに非認知能力とか社会情動的スキルと言われていて、それは問題を解決しようとする主体性だったり、問題を乗り越えようと他者と力を合わせることであったり、またそのためには自分に自己肯定感があるかってことも大事になってきます。子どもたちはきっと遊びの中で困難にぶち当たる時がある。友達と思いがぶつかり合うこともある。大人になってからの直面する問題の縮図が保育園での遊びにあります。そう思うと乳幼児期って本当に大事で、来たる激動の社会を乗り切る根本はきっと乳幼児期にあると思うんです。そしてもしかしたら、保育園ってところが今後のコミュニティにおける重要な拠点になるんじゃないかなとも思っています。実際コミュニティってどんどん無くなってきてますよね。小学生になると保護者は子どもを家から送り出すだけじゃない?でも乳幼児期だと、バス通園とか以外は、保護者も子どもと一緒に保育園にくる。毎日毎日、長い人で6年間。保護者全員が密な関係ではないかもしれないけれど、それでも毎日集まってくる。そんな場ってなかなかないと思うんですよね。だからこそ保育園やこども園が人と人を結びつける接点になるかもしれない、と。そして子どもが成長する場だけじゃなくって、保護者も一人の人間として成長できる場になりうるかも、と。そうなればもっともっと社会が豊かになるんじゃないかなって。
そう思うと、保育園やこども園ってとても重要だし、可能性を多分に秘めている場だと感じています。だからこそ、魅力的で熱い思いをもったたくさんの方々に、保育の道を志したり、サポーターになっていただけたら嬉しいなと思っています。

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